自転車事故の「天国と地獄の分かれ目」

自転車が交通事故の加害者になった、歩行者が死傷したという事故が起きても、ほとんどは断片的な外形しか報じられていない。

裁判傍聴マニアである私は、自転車事故の刑事裁判を数多く傍聴してきた。そのなかで、「自転車事故はここが天国と地獄の分かれ目だ!」と強く感じることがある。死傷事故が起こってなにが「天国」だ、ではあるのだが。どこがどんな分かれ目か、今回はその話をしよう。

自転車事故の写真。倒れる男性と自転車を降りて声を掛ける男性
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです

先に、全体を見渡すため、データ等を少し確認しておきたい。自転車の事故は、主に「過失傷害・致死」「重過失傷害・致死」の罪名で起訴される。刑法に定められた法定刑は、それぞれこうだ。

過失傷害 30万円以下の罰金又は科料(第209条)
過失致死 50万円以下の罰金(第210条)
重過失傷害・致死 5年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金(第211条後段)

「ついうっかり」は過失、違反を伴うと重過失

実は、こうした罪名の事件が実際に法廷へ出てくることはあまりない。法務省の2022年の統計(図表1)を見てみよう。公判請求とは、正式な裁判への起訴だ。略式命令請求は、略式の起訴。略式の裁判は法廷を開かない。罰金刑の事件は原則、略式で処理される。

罪名別 検察処分人数の表
検察統計調査(2022)より筆者作成

このうち、「過失傷害」のみが親告罪だ。つまり被害者の告訴を要件とする。不起訴の理由は、3311人のうち2921人が告訴の取下げ等となっている。示談の成立などによるのだろう。

公判請求の合計は、全国で1年間に合計20人でしかない。それら罪名の刑事裁判を、私は狙って傍聴してきた。その数は、2008年3月~2024年2月の16年間に、主に東京簡裁、地裁、高裁で81件に上る。

犬の咬みつきも数件あった。まれに、立体駐車場のパレットの操作ミス、スキーヤーとスノーボーダーの衝突事故、道端に駐車して開けたドアに自転車が突っ込んだ事故などもあった。しかし、ほとんどは自転車の事故だ。

単に「ついうっかり」のケースは「過失……」、赤信号無視など明白な違反を伴うケースは「重過失……」、そんな運用が浮かび上がる。